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福岡地方裁判所小倉支部 昭和41年(ワ)337号 判決

原告

古賀教正

被告

北原昌子

主文

一、被告は、原告に対し、一四〇万一、四九七円およびこれに対する昭和三九年五月一六日より支払済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、これを八分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四、この判決の第一項は、仮に執行することが出来る。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

(原告)

被告は原告に対し二〇〇万円およびこれに対する昭和三九年五月一六日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求原因

一、(事故の発生)

昭和三九年五月一六日午後八時二〇分ごろ、行橋市大字道場寺一、五〇二番地木本勇方前交叉点に於て、訴外竹内信利(以下訴外竹内という)は、被告所有の軽四輪貨物自動車福六う九八三号(以下被告車という)を運転し、同所を小倉方面から新田原駅方面に向い右折中、折から中津方面から小倉方面に向い、同交叉点を直進中の原告運転にかゝる単車(以下被告車という)前部に被告車の左側後部を接触せしめ、同人を同所に転倒させて、よつて同人をして入院加療六ケ月間を要する脳内出血、左鎖骨、左三、四、五肋骨々折及び顔面挫傷等の傷害を負はせるにいたつた。

二、(被告の責任)―自動車損害賠償保障法第三条

被告は、家具等の売買を業とする商人であり、被告車を所有するものであるが、日常自己の営業のため、自己の使用人たる訴外竹内をして、被告車を運転せしめていたものであり、本件事故は、右使用人たる訴外竹内が被告のため被告車を運転中発生したものである。

三、損害

(1)  事故後六ケ月間の入院治療費 一五万円

(2)  右期間内の付添費(家政婦雇入費) 一二万六、〇〇〇円

(3)  前之園病院退院後、本件口頭弁論終結までの間後遺症治療のため要するであろう通院治療費 一〇〇万円

原告は、本件事故によつて前記病院退院後も、(イ)背骨が歪曲してその為腰部に激痛があり、(ロ)事故の際の頭部打撲により頭痛が残つている。

原告はその為、前記病院退院後も、九州大学及び久留米医大の各附属病院に通院し、昭和四〇年二月二二日からは福本医院に通院して治療にあたつているのであるが、右後遺症の程度からみて、本件口頭弁論終結までの間、注射等の治療費として約一〇〇万円程度の費用を要するであろうことは明らかである。

(4)  右入院中の逸失利益 四八万円

けだし、原告は本件事故当時、訴外鹿島建設株式会社に勤務し、一ケ月八万円の収入を得ていたものであるから、六ケ月間の入院により前記同額の利益を失つた。

(5)  慰藉料 三〇万円

原告は、本件事故によつて六ケ月間の入院加療を余儀なくさせられ、多大の精神的苦痛を蒙つたから、右苦痛に対する慰藉料としては、三〇万円を以て相当と考える。

よつて原告は以上合計二〇五万六、〇〇〇円中、一応二〇〇万円とこれに対する本件事故の日である昭和三九年五月一六日から完済にいたるまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、被告の答弁及び抗弁

(答弁)

一、請求原因第一項記載の事実は、原告主張の日時、場所において、被告車と被害車とが衝突したことを認め、その余の事実は不知。

二、同第二項記載の事実は、被告車が原告の所有であることのみを認め、その余の事実は凡て否認する。

則ち、訴外竹内は被告の使用人ではなく、訴外合資会社北宮家具店の使用人であつて、被告とは何ら雇傭関係にないものである。

又被告車の使用目的も前記訴外会社の荷物の運搬に使用されていたもので、被告には何らの運行利益も帰属していなかつた。

当時被告は、自己の車庫を倉庫代りに使用していて被告車を格納することが出来なかつたので、若松区本町七丁目から堺町通りに這入つたところにある訴外ガソリンスタンド営業所に、同車を駐車させてもらつており、平常訴外竹内は訴外会社の仕事が了はると、同車を同所まで運搬し、同車と同車の鍵とを同営業所に預けて保管してもらつていた。

しかし訴外竹内には、右以外の目的で同車を使用することは禁じられていたのであるが、本件事故はたまたま同訴外人において右禁止を破り、無断で同車を同訴外人の私用のため運転中に惹起せしめられたものである。

よつて被告には、何ら運行供用者としての責任はない。

三、同第三項記載の事実は、不知。

第四、証拠 〔略〕

理由

原告主張の日時、場所において、被告車と被害車とが衝突したこと、並びに被告が被告車を所有していることは、何れも当事者間に争いがない。

第一、(本件事故の発生について)

〔証拠略〕並びに前記当事者間において争いなき事実を綜合すると、原告主張の日時、場所において、訴外竹内運転の被告車が、小倉方面から新田原駅方面に向かい右折中、右方の安全確認を怠り、折りから中津方面より同交叉点に向かい直進して来る被告車に全く気付かず、慢然自車を進行せしめた過失により、自車の左側後部を被告車前部に接触させて同人をその場に転倒させ、よつて同人をして脳内出血、左鎖骨、左三、四、五肋骨々折及び顔面挫傷等の傷害を負わせた事実を認めることが出来、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

第二、(被告の責任原因)

被告車が被告の所有に属することは当事者間に争いがない。たゞ原告は、被告と訴外竹内間に雇傭関係等指揮監督の関係があつた旨主張し、被告は右を否認して、訴外竹内は訴外合資会社北宮家具店の店員であつて被告との間には何の関係も存しない旨主張するので、先ずこの点につき判断する。

〔証拠略〕を綜合すると、被告は昭和三八年七月三一日有限責任社員たる訴外北村正俊らから、その持分を譲受けて、自ら訴外合資会社北宮家具店の社員となり、被告の母訴外北原ナツも同会社の有限責任社員として名を連ねていたこと、同会社は会社組織となつていたものゝ、従業員としては訴外竹内以外になく、しかも同会社の仕事はその自宅において、被告の夫訴外北原睦久が中心となり、被告や前記同人の母らが同人を助けて、いわば家族全体が同社の経営に当つていたこと。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実からすると、訴外会社は一応名称は合資会社となつているが、その実体は被告ら一家の個人経営に外ならず、従つて被告も又、訴外竹内に対して同会社の業務上の指示を与えていたものと考える。

そして前記各証拠によると、訴外竹内は軽四輪車の運転免許資格を有していたゝめ、その特技を見込まれて雇われたものであり、従つて右訴外人は平常被告車を運転して訴外会社の商品たる家具等の運搬に当つていたこと、しかしその車庫は倉庫代りに使用されていたゝめ、被告車を格納する余地がないため、一日の仕事が了つてのちは、同訴外人が二粁程離れた原告主張のガソリンスタンド営業所までこれを運搬して、同所に駐車保管を委託していたこと、本件事故は同訴外人が訴外会社の仕事を終えた後、新田原にいる養母竹内ハルエを訪ねるべく被告車を運転進行中惹起したものであるが、同訴外人は被告車を私用に利用することにつき、右ガソリンスタンドから電話で連絡し被告の了解をえたこと。

以上の事実が認められ、これと異なる証拠は採用しないところ、右認定事実からすると、事故当時、訴外竹内が被告車を何の目的で使用していたかは一応別として、ともかく被告は同訴外人を介して被告車を自己のために運行の用に供していたものと考える他なく、従つて被告が自動車損害賠償保障法第三条所定の損害賠償責任を負うべきことは当然である。

第三、損害額

〔証拠略〕を綜合すると

(1)  原告は、本件事故により、まず行橋市大字祇園町所在宮城整形外科医院で治療を受けて九〇六円を支払い、つゞいて昭和三九年五月一六日から同年七月二七日まで、苅田町神田町一丁目所在前之園医院に入院し、入院治療費として支払うべき一二万九、二二〇円の債務を負担し、その他右入院中の果物、卵、氷等の購入代金二万八、五九一円を支出し、結局合計一五万五、四九七円の損害を蒙つたこと。

(2)  右入院期間中の雑役婦、付添婦等の雇入費用として、一二万六、〇〇〇円を支出していること。

(3)  又前記各証拠に弁論の全趣旨を合はせると、

原告は、本件交通事故による頭部外傷の後遺症として、日常偏頭痛を有し、これが治療のため昭和四〇年三月一二日から同四二年八月頃までの間、月平均二〇日程山口県光市島田市上町一二の一所在福本医院に通院し、一回約一、〇〇〇円程度の治療費を支払つていたことが認められ右認定に反する甲第九号証及び証人古賀マサ子の証言は何れも当裁判所として採用せず又他に右認定を覆えすに足りる証拠もないから、原告の前記前之園病院退院後本件口頭弁論終結までの間、後遺症治療のために要した費用は、約五八万円程度であつたと考えられること。

(4)  原告は事故当時鹿島建設株式会社に勤務し、月額約八万円程度の収入を得ていたが、本件事故によつて、約三ケ月間前記前之園医院に入院し、同期間内は前記会社から収入を得ることが出来なかつたので約八万円の三ケ月分即ち約二四万円の得べかりし利益を失なつたこと。

(5)  原告は本件事故によつて、三ケ月間前記前之園病院えの入院加療を余儀なくさせられ、その精神的苦痛は甚大であり、その上本件事故における訴外竹内の過失の態様、原告負傷後の被告の示談における態度等諸般の事情を綜合すると原告の右精神的苦痛を慰藉するには、原告主張の通り三〇万円を以て相当と考えられること。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

第四、結論

すると、被告は、原告に対し右合計一四〇万一、四九七円及びこれに対する本件事故の日である昭和三九年五月一六日から完済にいたるまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

そこで、原告の請求は、右の範囲内で理由があるので、これを認容し、その余の部分はこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田畑常彦 弓木竜美 中村行雄)

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